おやじの背中
栃木の親父から和菓子が届いた。
親父は今年70を迎える。 和菓子職人である。
14歳のときから修行しているので、もう50年以上和菓子をつくっている。
あのころとちっとも変わらない、素朴なまんじゅうをかじってみたら、なつかしい味がした。
何年か前に帰省したとき、妻が親父に聞いた。
「お父さんはどうして和菓子職人になったの?」
私も聞いたこともない質問に親父が答えた。
「じいちゃんが甘いものが大好きで、甘いものを食べたときにすごく嬉しそうな顔をしたからな。」
戦後まもなくで、父親はシベリアに抑留されていて、食べていくために仕方なく職人の道に入ったとばか
り思っていた。
思春期になって、私は親父が嫌いだった。 毎日朝早くから汗まみれで働く親父がかっこわるかった。
スーツを着て出勤する友達のお父さんがかっこよく見えた。世渡りが下手な親父みたいになりたくない
と思った。
そして今、私は親父の背中を見て育つことができて、幸せだったと感じている。
子供が生まれ、親父が来る日も来る日も、毎日5時に起きてボイラーを立ち上げていたときの想いがやっ
と、少しわかるようになった。
ずいぶん心配もかけたし、親孝行らしいこともできていない。 それでも、今度は私がこどもたちに親父
の背中を見せていく番である。
私は親父を越えれたかな? まだまだこれからのようである。 越え甲斐のあるでっかい背中の親父にな
りたい。